フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

2016-11-01から1日間の記事一覧

最終話「星が歌う」

いつものようにエマは買い物をしていた。「りんご二つと、あと、ハーブもね」「はいよ。いつもありがとな」代金を払い、笑顔をみせるとエマは店を出て行った。それを見送ると店の主人は隣に立っている妻に話しかけた。「なんだかなぁ。エマもよく笑うように…

第21話 「葛藤」

帰り道、エマは見慣れた星空を見ながらあえてなにも考えないようにした。ようやく家に着くと、気だるく重い足取りで自分の部屋へ向かった。ベッドを見ると天窓から月明かりが差し込む部分にきらりと光るものが見えた。 「………!」 エマはベッドへ腰を掛け、そ…

第20話 「またね」

「話があるんだ」いつものように草原で話していると、神妙な顔つきでルテが言った。エマは話の内容に予想がつかず、なぁに?と首をかしげた。 「今日ソレイユに帰る」 ルテは立ち上がって顔を伏せた。エマの顔を直視するのが恐かったのだ。「まさか。ルテ、…

第19話 「現実」

ルテの翼は真っ白で、時折幼い頃に見た絵本にあった虹のように美しかった。そしてエマをしっかりと支えて飛ぶルテの表情は凛としていて、今まで無邪気な笑顔をみせていたとは思えないほどに強くまっすぐな眼差しだった。星屑列車の軌跡をなぞる様にスコルピ…

第18話 「星屑の湖」

ソレイユでは、太陽が輝き、光に満ちている。この星の建物は白で統一されていて、中心には大きな神殿があった。ここの人々は翼が現れるとこの神殿で儀式を行い、使命をうける慣わしだった。 年の近い友人が次々と神殿へ行く中、ルテは彼らの背中を見ることし…

第17話 「aimable」

「じゃあまた明日ね?」「うん、また明日」 いつものようにふたりは草原で別れた。帰っていくエマの背中、時々振り向いて手を振る少しさみしそうなはにかんだような表情。にっこりと笑って見送るルテの心はいつもきゅっと摘まれている様な感覚を覚えていた。…

第16話 「ひみつ」

店と店の間の細い路地に、二人の人がうずくまって座っている。一人は子供で、見たところ親子のようだ。裾が破けたズボンを穿き、ぼろの布切れをまとっている。母親と見える人が、しゃがれた声で話しかけてきた。 「そこのお方、聞いてください。私たちは何日…

第15話 「商店街」

翌日、目が覚めるとエマは上半身を起こしてボーっとした表情で天窓を眺めた。空は相変わらず黒いびろうどに白い星がちりばめられた夜空だけが広がっていた。(ルテ…)綺麗な星色の翼をつけたルテと一緒に星空を飛び回った夢をみた。夜空ばかりをみていたエマの…

第14話 「空を飛べたら」

翌日もその翌日もエマはいつもの時間に草原へ行った。そこへ行けばルテがいた。ひとりになりたくて通っていた場所が、一人の場所ではなくなっていた。しかしその事を嫌に思う気持ちはなかった。彼の言葉にはいつも嘘がなく、別世界の話は興味深かった。エマ…

第13話 「懐中時計」

「あ、もうこんな時間だ…ねむらないと」こんなに夢中になって話してしまったかと思うとエマは急に気恥ずかしくなり少し慌てて立ち上がった。 ゴトッ エマは落とした物を急いで拾うと、ゆっくりとまた座りじっとそれを見つめた。それはいつもエマが身に着けて…

第12話 「太陽」

目をつむって、無理やり寝ようと試みた。(だめだ、眠れない…) こんな時は風にでもあたって気分転換した方が良い。エマは出窓から屋根へ登った。するとそこには先客がいた。空を見上げているのはルテだった。片膝を抱えて座り、白銀の髪が月に照らされて透き…

第11話 「食事」

「…ただいま」「おじゃましまぁす!」 家のドアを開けながら二人が言うとエマの母親は手際よく夕飯の支度をしながら嬉しそうにおかえりなさいと言った。二人はとりあえず荷物を置き、食事をするための支度をして席に着いた。テーブルにはいつもよりも随分多…

第10話 「日常」

翌日もエマは草原に向かった。商店街を抜けて、少し歩くと小高くなった所にそれが見える。今日の夕食に誘うかどうかは別として、フラジェントルが見えない少年にまた会ってみたいという気持ちは否定できなかった。 大きな木の根元に彼はいた。柔らかい草の上…

第9話「鼻歌」

エマはまるて不意に灯った頬の熱を冷ますかのように夜風を切って走っていた。(なに赤くなってんだろ…) バタン 家に着くと包丁のトントンというリズムを刻み上機嫌に鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしている母がいた。 「…ただいま……」「あらおかえりなさい、今…

第8話 「エマとルテ」

エマは怪訝な顔をした。こちらの機嫌は気にとめる様子もなく、常にルテは無邪気だった。「この街の人は皆いい人だね」 その言葉を聞いて、疑うようにさらに眉をしかめた。「そんなの上っ面だけよ。まさかあなた信じてたの?」「え?街の人はみんな優しくして…

第7話 「再会」

エマはいつもの草原へ向かい歩いていた。ザクザクと草を踏みながら頭は反対にいつもとは違うことを考えていた。(ルテ……だっけ…あの人も夢の中ではこの草原に…)手前から大きな木の姿が見えてくると、どことなく歩みを遅らせていた。(もしかしたら…)トクトクと…

第6話 「現」

「はい、これで全部だよね」差し出された果物を受け取りながら少女は初めて少年の顔を見た。 少女は目を見開き、驚いた表情をした。「あなたは…」彼は満面の笑顔をむけた。「僕の名前はルテ。君は?」 少女はルテから目をそらすと、黙って歩いていってしまっ…

第5話 「Lune」

・・・・・・・・・・目をあけると空はまだ夜だった。着陸した大きな木がある草原でいつの間にか眠ってしまっていた少年は一面星ばかりの美しい夜空を眺めながら考えていた。 (ずいぶん眠っていたのに…まだ夜だ…。あの大きな月……ということはここが学校の本…

第4話 「流れ星」

母に父親のことをだずねると決まってこうだ。「お父さんはとても優しくて素晴らしい人だったのよ」その話をする時、母のお腹に霧がまかれたようにフラジェントルが浮かび上がる。すべて作り話なのだ。そうであってほしかったという母の願望にすぎないのだ。…

第3話 「写真」

階段を降りていくと、ぼんやりと注ぐ白熱灯の温かい光と夕飯の香りに包まれたいつもの食卓へと着いた。パンやスープが並べられている食卓から改めて周りを見渡すと、室内は母親の趣味で飾られた家具や色付きガラスの空きビンや観葉植物の土に星型やハート型…

第2話 「帰宅」

商店街を抜けて少し細い路地をはいると、赤いウロコ屋根の小さな家がある。古いのか、窓の立て付けが悪く、少しゆがんでいる。エマは丸い扉を開け、家に入った。扉についていた鈴がシャラシャラと鳴る。 「あら?エマ帰ったの」いつもの様に母親は夕飯の支度…

第1話 「青色特急」

いつもとかわらない星屑をちりばめた空には汽笛を鳴らす午後6時発の青色特急が走っていた。ほぼ毎日のように訪れる馴染みの草原に寝転がり数時間、この列車を見送ってから帰宅することがエマの日課になっている。整列した星屑の線路の上をキラキラと光の道筋…