フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第21話 「葛藤」

帰り道、エマは見慣れた星空を見ながらあえてなにも考えないようにした。
ようやく家に着くと、気だるく重い足取りで自分の部屋へ向かった。
ベッドを見ると天窓から月明かりが差し込む部分にきらりと光るものが見えた。

「………!」

エマはベッドへ腰を掛け、その光るものを見ると目を見開き驚いた。
それはルテがいつも首から下げていた指輪に紐をつけたペンダントだった。
ペンダントを手にした途端、エマの脳裏にまるで映画を早送りして見ているかの様にすごい勢いでルテと過ごした今まで思い出が蘇ってきた。


「わ、ご、ごめんね怪我はない?!」
「僕の名前はルテ。君は?」
「夢じゃないよ?」
「また会えたね」
「あ、エマ。おはよう」
「うん。またね、エマ」
「そうなんだぁ!一緒だね、エマ」
「うん、おやすみエマ」
「エマ、太陽を知っている?」
「…うん。僕はソレイユという星から来たんだ」
「そうだね、明日もまたエマのお話たくさん聞かせてね?」
「ふふ…いいよ、たくさん話そう」
「空を飛べたらどんなに良いだろう。きっと気持ちが良いだろうね」
「エマ、ありがとう。元気でた」
「飛べるようになったら一番にエマを空に連れて行ってあげる」
「ねえエマ、この指輪エマに似合いそう!」
「ありがとう、僕、騙されるところだった」
「よかったね、エマ」
「……かわいい…エマ」
「……ソレイユにいたときの夢をみてたんだ」
「うん。エマのおかげだ」
「そんなことない。エマ、おいで。僕につかまって」
「恐がりだなぁ」
「エマ、ありがとう」
「エマ」

「また…会いにくるよ、必ず」

今までたった一人で人を信じることもできずに過ごしてきた。
繰り返しの毎日に流れ星に乗って突然現れたルテという存在。
いつのまにか当たり前になっていた存在。
一人では感じられなかったたくさんの感情を知ることができた。
二人で歩いた道、二人で座った草原、二人で過ごした日々…
当たり前だった場所や風景も全部が新しく、輝いて見えた。
目を閉じ、思い返すとエマにとってどれも大切で本当に愛しくてたまらない日々だった。
でも、もう目を開けても、手を伸ばしてもルテはいない。
エマの目から再び溢れ出た涙は止まらなかった。

「……胸が…苦しくて痛くて……………淋しいよ……ルテ…」

ペンダントを両手でぎゅっと握り胸に当ててエマは声をあげて泣いた。
涙が枯れてしまうんじゃないかと思うくらい、たくさん泣いた。
本当はずっとそばにいてほしかった。
いつまでも一緒に笑っていたかった。
溢れ出る涙を拭いながらそのまま横になり瞼を閉じた。
すると視界に広がる星のない夜空の様な真っ暗闇にふんわりと光を放つルテの姿が浮かびあがった。
ルテはゆっくり微笑むと何かを語りかけてきたが、聞きとる事はできずエマはそのまま眠りについてしまった。

 


「泣かないで、エマ……必ず会いにいくから…約束…」

 


天窓から注ぐ月明かりが顔にかかりエマはゆっくりと目を開けて体を起こした。
手の中にはルテのペンダントがしっかりと握られていた。

「……約束…ルテ、信じてる…」

ペンダントをゆっくりと首に掛けると、月の向こう側を見るように遠くを見つめた。