フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第2話 「帰宅」

商店街を抜けて少し細い路地をはいると、赤いウロコ屋根の小さな家がある。古いのか、窓の立て付けが悪く、少しゆがんでいる。エマは丸い扉を開け、家に入った。
扉についていた鈴がシャラシャラと鳴る。

「あら?エマ帰ったの」
いつもの様に母親は夕飯の支度をしながら言った。エマはそれに返答せず階段を登り、自分の部屋に入った。

ベットに体をなげて、天窓から空を眺めた。

エマはいくら空を見ても飽きなかった。空は嘘をつかない。だから花が見えることはなかった。

もうしおれているフラジェントルの花を見るのには嫌気がさしていた。

(大人たちの花はみんな汚い…)

そして自分も汚い花になるのだろう、と半ば諦めて、またため息をついた。

母親が夕飯に呼ぶ声がする。
エマはゆっくり起き上がり、階段をおりていった。

第1話 「青色特急」

 いつもとかわらない星屑をちりばめた空には汽笛を鳴らす午後6時発の青色特急が走っていた。ほぼ毎日のように訪れる馴染みの草原に寝転がり数時間、この列車を見送ってから帰宅することがエマの日課になっている。
整列した星屑の線路の上をキラキラと光の道筋をのこして去る列車を見送ると、徐に上着の右のポケットから古びた懐中時計を出した。
「んー…もう6時かぁ……。」
時刻を確認してはつまらなそうな溜息と共に重い腰をあげ、パチンと音をたてて蓋をした懐中時計をしまうと衣服や髪についた葉っぱを気だるげにはたいて歩きだした。

「…あら、エマちゃんじゃない、こんばんは。」
夕刻のせいか賑わう街並みをひとり目立つほどの重い足取りで歩くエマの肩をトントンと叩いて声をかけてきたのは隣の家の奥さんだった。
「あ…こんばんは。」
「エマちゃんは可愛いから羨ましいわ。私の息子なんててんでだめなの。」
そう言ってニコニコ笑う奥さんのお腹は不意にすーっと透け始めいつも通り一輪の花、フラジェントルを映し出していた。
しかし、エマが視線をそちらへ向けた頃には既にフラジェントルはしおれ始めていた。
(……また嘘ばっかり…。)
エマはそう心の中で呟くと表情に出す事はなく奥さんに小さく会釈をしては、まるで逃げる様にその場を立ち去った。