フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第17話 「aimable」

「じゃあまた明日ね?」
「うん、また明日」

いつものようにふたりは草原で別れた。
帰っていくエマの背中、時々振り向いて手を振る少しさみしそうなはにかんだような表情。
にっこりと笑って見送るルテの心はいつもきゅっと摘まれている様な感覚を覚えていた。
完全にエマの姿が見えなくなると、ルテは馴染みの場所にゆっくりと横になった。
見上げた空には代わり無く、一面の星屑と月。
時間通りに発車した青色特急はもう随分と先の方で湾曲の軌跡をきらきらと残して走って行ってしまった。

ルテは目を瞑り、いろいろなことを思い出していた。

(この星に来てからたくさんのことがあったな。
エマという女の子に出会い、たくさん話して、たくさん遊んで…。
僕が他の星から来たと言っても、翼の話をしても、翼を持たない僕を笑いもせずちゃんと受け入れてくれて励ましてくれた。
本当に嬉しかった…。
そして今日はとても大切な話をしてくれた。
うそをつくと見える花…心の一部を見ているようなものだ。
今までエマはどんな気持ちでそれを見ていたんだろう、しおれていたり枯れていたりしたときはとても寂しかっただろうな…。
エマの事だからきっと他の誰にも言ってないんだろう…。
これは僕とエマだけの秘密…誰にも言わないよ……。)

気づけばルテはスースーと寝息をたてていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日もエマはルテといつもの草原に来ていた。
なんだか空腹感を覚えるエマは右ポケットから懐中時計を出して時刻を確認すると午後1時を過ぎていた。

「ねえルテ、あたしお腹すいたわ」
「そうだね、そういえば僕も!」
「じゃあ商店街に行きましょう?今日は角のパン屋さんが新しいパンを売るって、さっきお母さんが言ってたの」
「うん!じゃあ買ってきて、またここで食べよう」

二人は上機嫌に商店街へ向かった。
パンやスープを買って草原へ戻る途中街の時計を見てなんとなく右ポケットを触った。

「あれ…?」
「ん、どうしたのエマ?」
「…ないの、懐中時計がないの!」

エマは青い顔をしてポケットや鞄を探すと慌てて商店街の方へ戻ろうとしたが、ルテがグっと肩を掴んで言った。

「待って、落ち着こうエマ。大丈夫、きっと見つかるから」
「…きっとパン屋さんだわ、お金を払ったときとかに…!!」
「ううん、僕は草原にあると思う…よく思い出してごらん?」

エマは行動を思い返しすように眉を少し歪ませるも、ハッと思い出しては目前の草原に走って行った。
ルテはふふ、と笑ってそのあとをゆっくりと追いかけて行った。

「…あった!ルテ、あったよ!…よかったぁ…。」
「よかったね、エマ」
「うん……ありがとう!」

ありがとう、エマはそう言って少し涙を浮かべて潤ませた瞳でルテをまっすぐに見つめ、まるで周り一面に花が咲いたようにふんわりと笑った。
ルテは思わず顔が熱くなり急いで目から下辺りを腕で隠すも、その笑顔に見惚れてしまい言葉を詰まらせた。

「ルテ…?」
「…ん…ああ…」
「どうしたの?」

ルテは顔を隠していた腕をおろすと、ふわりとエマ髪にふれた。
指先で髪を梳くようにゆっくりと撫でた。

「ル…テ…?」
「エマ…エマって言う言葉は僕の星では“愛らしい”とか“優しい”っていう意味なんだよ」
「そ、そうなの?なんだかあたしに合わなくってくすぐったいわ…ふふ」
「ううん、僕はぴったりだと思うよ。エマは本当に愛らしいよ…」

エマはトクと心臓が跳ねて止まらなくなりそうだった。
え、と返答しようとした時、髪を撫でていたルテの手がふわりとエマの後頭部へ回り、エマの顔はルテの肩口にぽふっとあたった。
エマは突然の事に胸の高鳴りを抑えられずも少しも嫌な気持ちは無かった。
ほんの少し触れるルテからも自分と同じくらい早い鼓動が聞こえるととても嬉しかった。
「……かわいい…エマ」
ルテはとても小さな声で何かを呟いた。
「…ルテ?」
エマは聞き取れずにルテの片腕の中で少し見上げると耳まで真っ赤にしているルテが見えた。
エマはなんだか嬉しくてふふ、と笑ってしまった。