フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第11話 「食事」

「…ただいま」
「おじゃましまぁす!」

家のドアを開けながら二人が言うとエマの母親は手際よく夕飯の支度をしながら嬉しそうにおかえりなさいと言った。
二人はとりあえず荷物を置き、食事をするための支度をして席に着いた。
テーブルにはいつもよりも随分多めに作られた食事が何種類も並べられており、エマは三人ではとても食べきれないだろうと内心思うも、そこから母のはりきりが伝わるようだったので悪い気はしなかった。

ルテは席に着くや家の中をきょろきょろと見回した。
「…家の中そんなに珍しい?」
「ううん!珍しいとかじゃないけど…エマのおうちすっごく可愛いね!」
エマが少し呆れたような声色で言うとルテはいつもの屈託の無い笑顔を向けて答えた。
ルテのその言葉にエマはハァとため息をついて反論しようとした時、用意を終えた母が割り込むように入ってきた。
「うふふ、可愛いでしょうー?おうちの中は私の好きなものばかりなの!」
嬉しそうに言いながら席に着く母にルテは感心したような顔をしていた。
そんな二人の様子が少しくすぐったいような複雑な気持ちになったエマは小さくいただきますと言って一人で食べ始めると、それに続いて二人もクスと笑い食べ始めた。

「わぁ…これも、これもみんなおいしいです!」
「そうかしら?ありがとうルテくん!たくさん食べてね?」
「……」

ルテは本当においしいと言って嬉しそうに食事をしていた。
しかし無邪気に笑う反面、ナイフとフォークを使い行儀良く食べる姿は少し意外だった。

「それにこのスープ!昔母が作ってくれたのと似ていてとても懐かしい味…」
「あら、それはエマが一番好きなスープなのよ!」
「そうなんだぁ!一緒だね、エマ」
「べ、別に一緒じゃないでしょ?作ってる人違うし」
「ふふ、ふたりは仲良しなのねぇ」
「はい!エマはとても優し…」
「ちょ、ちょっとやめてよお母さん!ルテもいい加減な事言わない!」
「あらあら本当に仲良しね!うふふ!」

エマとルテ、お互いの小さい頃の話や好きな事など食事をしながらたくさんの話をした。
食卓を囲み久方にこんなに賑やかな食事をしたのだろうと思っていたのはエマだけではなく母もルテもだった。
楽しく流れている時間にも、ふとした瞬間ルテのいつも見せる笑顔がふっと淋しそうにみえた時があった。エマはそれがなぜかと少し気になるも今は聞こうとはしなかった。
食後の紅茶も飲み終える頃、母がおもむろに問いかけた。

「ねえルテくん、今日は泊まって行ったらどう?」
「え…!?……いいんですか…?」
「もちろん良いわよ!ご両親にお電話とかしたほうがいいかしら?」
「あ、それは大丈夫なんで…!」
「あらそう?ふふ、それじゃちょっと待っててね?」
母は嬉しそうに父の部屋が空いているのと言って階段を上がって行った。
エマは母の性格とこの時間を見越してこうなるだろうと思っていたせいか、珍しく反論する事もなく黙っていた。


「じゃあ…おやすみ」
「うん、おやすみエマ」

バタン

廊下でルテと別れエマは自分の部屋の扉に寄りかかり、まさか母以外の誰かにおやすみを言うなんて、と思い複雑な気持ちで立っていた。
ゆっくりとベットへ横になり、天窓を見上げて星空を眺めた。
(昨日も今日もなんだか色々な事があったな…)
気のせいか一段と眩しく見える月明かりにエマの目は冴えていく一方だった。