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フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

最終話「星が歌う」

 いつものようにエマは買い物をしていた。
「りんご二つと、あと、ハーブもね」
「はいよ。いつもありがとな」
代金を払い、笑顔をみせるとエマは店を出て行った。それを見送ると店の主人は隣に立っている妻に話しかけた。
「なんだかなぁ。エマもよく笑うようになったもんだ」
「そうね。ずいぶんと感じがよくなったこと」
「もう年頃なんだしどこかへ嫁にいってもおかしくないだろう。言い寄る男はいくらでもいそうじゃないか」
「そうねぇ」

こういった噂がそこかしこで沸いていた。もとから悪い素材ではなかったのだが人との関わりに壁を張っていたエマは、周りの人からしてもとっつきにくかったのだ。ルテがいなくなって5年の月日が経っていた。年を追うごとに明るく親しみやすくなり、みるみる綺麗になる彼女を街の男が放っておくはずもなかった。
「エマ」
背の高い男が声をかけた。
「あ、こんにちは。あなたもお買い物?」
「いや…エマが見えたから追いかけてきたんだ」
「そうなの?何か用事かしら」
エマは微笑んで首をかしげた。男は顔を赤らめながら言った。
「あの!お、俺と…」
「あ!流れ星!」
エマは空を指差して声を張った。男は決意を折られたように少し肩を落として示す方に振り向いた。
「お話の続きはまた今度聞くわ!用事を思い出したの、またね」
「え、エマ!」
男が何かを言う暇もなく走っていってしまった。

エマは流れ星をみると、草原に行かずにはいられなかった。その度、胸が早鐘を打つ。しかし結果はいつも寂しさを膨らませて帰ってくるのだ。
今回もそうだ。エマは自分の鼓動がうるさくて、周りの音や声なんかちっとも聞こえなかった。
草原に着くと、息を切らせながら辺りを見渡した。そこには風で草が揺れる音しかなく、いつもと何も変わることはなかった。
「今日も違うかぁ…」
ふぅ、とため息をついてゆっくりと帰路についた。
小高い丘を下っているとエマは妙な胸騒ぎがして立ち止まった。自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたのだ。

目を細めると、丘の向こうに白銀の髪色をした青年が見える。

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エマは無意識に駆け出していた。どうやってそこまで走っていったのか後から考えても思い出せない。気づくと青年の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「ルテなの。ここにいるの。夢じゃないのね」
「遅くなってごめん。許しをもらうのに時間がかかってしまった」
「許し?」
「リュヌを見守る使命をもらうために5年費やしたんだ」
「どういうこと…?」
「ここの人に混じって同じように暮らせるってこと」
「本当なの!?そんなに嬉しいことってないわ!あたしまだ夢をみているのかしら」
「本当だよ。フラジェントルが見えないだろう?」
相変わらず、屈託のない笑顔でルテは言った。
「ルテ、あたしね、もうフラジェントルが見えなくなってしまったの。ルテの花を見てから一度も見えないの。でも、信じることができるわ。心の底から」
「うん」
溶けてしまうくらいエマを抱きしめてルテは言った。

「エマ、ずっと一緒にいよう」
エマは、いつもの月がいっそう輝き星たちは歌うように瞬いて見えた。さっきまで何も変わってはいなかったのに、ルテの一言でこんなにも変わってしまう。ただ一人の人と一緒になるというのは、きっとこういうことなのだと感じていた。

そして、幸せに限りがないことも後々エマは確信することになるのだった。

 

 END