フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第14話 「空を飛べたら」

 翌日もその翌日もエマはいつもの時間に草原へ行った。そこへ行けばルテがいた。ひとりになりたくて通っていた場所が、一人の場所ではなくなっていた。しかしその事を嫌に思う気持ちはなかった。
彼の言葉にはいつも嘘がなく、別世界の話は興味深かった。エマが誰かに興味を持つことほど珍しいことはないだろう。自分自身にさえ興味など持っていなかったのだから。

「ルーテー」
なだらかな坂になっている草の上を歩きながらエマは目的の名前を呼んだ。エマはルテが振り向いて、目が合う瞬間が好きだった。必ず彼は自分を見ると花が咲いたように明るく笑い、名前を読んでくれる。予想通り、今日もそうだ。エマ、と呼んで駆け寄ってきた。
「見て、空に鳥が群れをなして飛んでいるよ」
ルテは空に指をさした。
「本当だ。北へ渡るのかしら」
エマも顔をあげ、指のさす方向を見つめた。
「空を飛べたらどんなに良いだろう。きっと気持ちが良いだろうね」
「ルテは飛べるじゃない。流れ星に乗って」
「あれは星が飛んでるのさ。僕じゃないよ」
「そんなの贅沢だわ」
ルテは草の上にドサッと音を立てて寝転がった。

「僕の住んでいたところではね、皆自由に空を飛びまわれるんだ」
「空を?」
「うん。ある時ね、鳥のように綺麗な翼が背中から現れる。そうしたら一人前として見なされるんだよ」
「大人になると翼が現れるの?」
「いや、そういうわけじゃないと思う。小さな子供でも翼がある子は稀にいるから」
「じゃあ小さい子でも翼があると一人前と見られるのね」
「うん。でも僕はまだ翼がないから半人前なんだ。あってもおかしくない歳なのに」
「ルテ、あなたいくつ?」
「18だよ」
「18!?…あたしよりひとつ上だったのね」
エマは童顔な彼の顔にだまされ、年下だと高を括っていた。意外なところで違いが発覚してしまい、驚きを隠せなかった。しかしルテが少し落ち込んでいるように見えたので、口にせず、励ますほうに専念した。
「個人差があるんでしょう?」
「多少はね。僕のお兄さんは15歳の時だったかな。人と比べても仕方ないとは思うけれど」
「不安になるのは賢い証拠よ。大丈夫、そのうちきっと飛べるわ」
「うん、僕もそう思うことにするよ」
普段人を励ますなどしたことなかったエマは、自分の不器用さにもどかしさを感じたが、ルテはすぐいつもの笑顔に戻ったので安心した。
「エマ、ありがとう。元気でた」
何でこの人はこんなに率直に言えるのだろうとうつむいた。
「飛べるようになったら一番にエマを空に連れて行ってあげる」
うん、と頷くのが精一杯だった。耳が熱かった。

***
家に帰り、布団に入ってエマはルテを思い出した。きっとルテの翼は綺麗な色をしているのだろう。きっと、髪と同じ、星の色。暖かくて、優しい色。
そんな事を考えながら、眠った。