フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第13話 「懐中時計」

「あ、もうこんな時間だ…ねむらないと」
こんなに夢中になって話してしまったかと思うとエマは急に気恥ずかしくなり少し慌てて立ち上がった。

ゴトッ

エマは落とした物を急いで拾うと、ゆっくりとまた座りじっとそれを見つめた。
それはいつもエマが身に着けている懐中時計だった。

「…エマ?どうしたの?」
「うん…これね…お父さんの形見なんだって」
「そうなんだ…すごく綺麗な模様だね」
「あたしにコレの価値とかはわかんないけど、ただお母さんが大事にしなさいって昔くれたものなの」
「へえ…きっとエマのお母さんみたいに優しいお父さんだったんだろうね」
その言葉を聞くとエマは少し沈んだように俯いて答えた。
「……それはどうかわからない」
「どうして?」
「リビングにあったお父さんの写真をみたでしょう?」
「あ、にっこり笑った写真でしょう?あれを見たらもっと優しそうに…」
「そこじゃないわ、写真にたくさんシワが寄ってるの」
「うーん…そうだったかなぁ」
「そうなの!あれは…お母さんがやったの。」

今まで少し不思議そうな顔をしていたルテは、だんだんと真剣な表情でエマの話を聞いていた。

「あたしが小さい頃なかなか寝つけなくて夜中に階段を下りていったらお母さんがお父さんの写真をじっとみつめてたの」
「うん…」
「それで…“どうして置いて行ったの、どうして”ってなんども言いながら写真を強く握っていた…それはその時のシワよ」
「お母さんも…きっと淋しいんだね…」
「その日以来お母さんがお父さんの話しをするときは決まって嘘をつくようになった」
「嘘を?」
「そう…“とても素晴らしい人よ”……そんなことちっとも思ってないくせに…」

エマはとても悲しそうな顔をして懐中時計をきゅっと両手で握った。
ルテはそんなエマの姿に心が少し痛む気がした。

「…さてと!もう本当に寝ないとね」
「そうだね、明日もまたエマのお話たくさん聞かせてね?」
「え…?べ、別にいいけど…かわりにルテの話も聞かせてよね!」
「ふふ…いいよ、たくさん話そう」

そう言ってふわりと微笑むルテにエマの頬はいつの間にか淡い朱に染まっていた。
エマは気恥ずかしそうにふいと顔を背けると懐中時計を右のポケットにしまい頬を抑えた。
ルテはまた小さくクスと笑ってエマを見つめていた。
二人はゆっくりと立ち上がり、それぞれの部屋へ戻っていった。


翌日、二人はそろってエマの母に起こされるまで昼過ぎまで眠ってしまっていた。
朝食と昼食を兼ねた食事を済ませると早々と支度をして家を出た。

「行ってきます」
「お邪魔しました!」

エマの母はルテにまた来てね、と笑顔で見送るとルテも嬉しそうに笑い返した。
二人が外に出て歩き出すと昼下がりの風が心地よく吹いていた。