フラジェントル

YUKI&ASUKAによるリレー小説

第10話 「日常」

 翌日もエマは草原に向かった。商店街を抜けて、少し歩くと小高くなった所にそれが見える。今日の夕食に誘うかどうかは別として、フラジェントルが見えない少年にまた会ってみたいという気持ちは否定できなかった。

大きな木の根元に彼はいた。柔らかい草の上に頭の後ろに手を組んで寝そべっている。
月と星の明かりだけが頼りのこの場所は、ろうそくの明かりが邪魔しないので昼寝には絶好なのだ。エマもよくそうしたように彼は目を閉じている。
「…ルテ」
エマは近づいて少しかがんでから名前を呼んだ。少年はう~ん、と目をこすって伸びをした。
「あ、エマ。おはよう」
ゆっくり起き上がってルテはエマに挨拶をした。
「頭に蝶々とまってるわよ」
その時ルテはあくびをしてしまったので、すぐ飛んでいってしまった。
「エマはいつもここに来るの?」
「…うん」
「ここいい場所だよね。僕、人が沢山いる場所も好きだけど、こうやって空をゆっくり眺めるのが一番好きだな。特にここから見る空が一番」
「うん、そうね。私も好き」
二人は座って無数の星が光る空を見つめた。

「あ、あのね」
ふいにエマは切り出した。
「昨日、落し物を拾ってくれた人がいたでしょう?」
「落し物?…ああ、このペンダントを拾ってくれた人のことかな」
ルテは首からさげたリングを指でとって言った。紋章のようなものが彫ってあり、銀色に光っていて、とても綺麗なものだった。
「その人ね、私のお母さんなの。それで、夕食を一緒にどうかって言っているんだけれど…」
エマは少しうつむいた。ルテは少し驚いた顔を見せるとすぐいつもの笑顔になって言った。
「エマのお母さんだったのかぁ。このペンダント、大切なものだからとても助かったんだ。それに夕食に誘ってもらえるなんて。僕は喜んで行くよ」

いつもの青色特急が発車した。列車が走った後の星屑は、まばゆく散って空に浮かぶ。
エマはいつもの帰り道を歩いた。空も街も変わらない。いつもと違うのは、一人ではなく、ルテと一緒に帰っていることだけだった。